CPAPとは?CPAP療法の効果と費用を医師が解説
- 2025年11月10日
- CPAPについて

CPAPとは?
「眠っている間に呼吸が止まる」「家族から『イビキがすごい』と言われた」、このような不安を抱えて来院される方は非常に多くいらっしゃいます。CPAP(シーパップ)は、そんな睡眠時無呼吸症候群(SAS)を改善するための呼吸器治療です。まず最初に、CPAPとはどのような医療なのか、そして何を目的とした治療なのかをわかりやすくお伝えします。
CPAPとは何をする機械?
CPAP(Continuous Positive Airway Pressure/持続陽圧呼吸療法)とは、眠っている間にマスクを鼻または鼻・口に装着し、一定の空気圧で気道を開いたままに保つ装置です。具体的には「空気を送り込んで気道が潰れないように支える」仕組みで、気道が閉じて酸素が下がる「無呼吸」「低呼吸」を減らします。医療的には、気道閉塞型睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea; OSA)に対して、呼吸数・血中酸素飽和度・覚醒回数などを改善させる目的があります。ガイドラインでは、CPAPが気道を物理的に開く手段として「第一選択療法」とされる場合もあります。
睡眠時無呼吸症候群との関係
「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)」とは、眠っている間に気道が部分的または完全にふさがることで呼吸が止まる(無呼吸)・浅くなる(低呼吸)状態を指します。これによって、夜間の酸素低下、頻繁な覚醒、日中の強い眠気が起こり、ひいては高血圧や糖尿病・心血管疾患のリスクを高めることがわかっています。ガイドラインでも、OSAの治療においてCPAP療法が選ばれる理由として「気道閉塞を直接改善し、無呼吸・低酸素のサイクルを断つ」ことが挙げられています。 また、40代以上・肥満・高血糖・甲状腺機能異常などを抱える方ではこの病態が隠れていることもあり、当院のように糖尿病・甲状腺を専門とするクリニックでも早期発見・治療の対象となることが増えています。治療により、朝の倦怠感や日中の眠気が改善する方が多く、日常生活の質が高まります。
呼吸器治療としてCPAPが必要になる症状・状態
では、どのような症状・状態で「CPAPを使うべきか」が医療的に検討されるのでしょうか。代表的な症状としては、「夜間の大きないびき」「呼吸が止まっている・息が苦しくて目が覚める」「日中の過度な眠気」「朝の頭痛」などがあります。また、睡眠中の酸素飽和度低下や、1時間あたりに無呼吸・低呼吸が多い(AHI=Apnea-Hypopnea Index)という数値基準が、治療適応の目安になります。日本のガイドラインでは、AHIが20回/時以上であったり、酸素飽和度が一定以下であったりする場合にCPAP療法の適応が明確とされています。 まずは、睡眠検査(簡易検査または終夜ポリグラフ検査)で無呼吸指数(AHI)をチェックしましょう。そして、単なる「イビキ」だけではなく、糖尿病・高血圧・脂質異常症がある方では“影響を及ぼす眠りの質”としても早期に検査・治療を検討すべきです。
CPAP療法の効果
「本当に良くなるのだろうか?」と不安に思われる方へ。CPAP療法は効果が明確で、多くの研究で医学的メリットが証明されています。具体的な改善点をお伝えします。
CPAPで期待できる主な効果
CPAP療法の最大の目的は「眠っている間の呼吸を正常に保つこと」です。これにより、夜間の低酸素や脳の覚醒が減り、朝の倦怠感や頭痛が改善されます。さらに、日中の眠気や集中力低下が軽減され、仕事や運転中のパフォーマンスも向上します。
医学的には、CPAP療法が睡眠時無呼吸症候群(OSA)患者において、心血管リスクを減らすことが報告されています(Marin JM et al., Lancet, 2005)。
高血圧や糖尿病など慢性疾患との関係
CPAP療法は、単に「いびき治療」ではなく、生活習慣病にも影響する治療です。OSAは夜間の低酸素状態によって交感神経が過剰に高まり、高血圧や血糖変動を悪化させることがあります。そのため、高血圧・糖尿病・脂質異常症を持つ方では、CPAPでこれらの改善が見込まれることが複数の研究で示されています(Barbé F et al., JAMA, 2012)。糖尿病内科医として、血糖コントロールが良くなるケースも経験しています。当院では糖尿病の専門知識を活かし、生活習慣病との“つながり”を意識した治療を行っています。
CPAPがもたらす長期的な健康リスクの低減
長期的なCPAP使用は、脳卒中・心筋梗塞・不整脈などの発症リスクを下げることが報告されています。特に、血圧の夜間降下が改善することで、血管への負担が減少します(McEvoy RD et al., NEJM, 2016)。睡眠の質が整うことでホルモンバランスも安定し、全身の健康リスクを長期的に下げる効果が期待できます。「長く続けるほど健康の土台が整う治療」と言えます。
CPAPにかかる費用
費用面は特に気になる部分だと思います。CPAP療法は日本では保険適用され、費用負担が抑えられている治療です。
CPAP療法の費用はどれくらい?
保険診療で自己負担3割の場合、月額5,000円前後が一般的です。費用には「機器レンタル料」「定期的な診察(1か月1回)」「データ管理費」などが含まれます。購入ではなくレンタル扱いのため、故障時の交換などのサポートも受けられます。
医療保険が適用される条件
CPAP療法が保険適用となる条件は、睡眠検査において
簡易検査:AHI(無呼吸低呼吸指数)が40以上
終夜ポリソムノグラフィー(精密検査):AHI(無呼吸低呼吸指数)が20以上
であることが原則です。
睡眠検査は、医師の管理のもとで行う必要があります。簡易検査でも条件を満たせば適応となり、入院しない検査で診断がつく場合も多いです。当院では、在宅でできる簡易検査で対応しています。検査→診断→CPAP導入までをスムーズに行えるようサポートしています。必要に応じて、終夜ポリソムノグラフィー(精密検査)を近隣の連携医療機関へ紹介しています。
CPAP機器とマスクの選び方
「続けられるか不安」と感じる方の多くは、機器のフィット感に悩んでいることが多いです。ここでは快適に使うためのポイントをお伝えします。
CPAPマスクの種類(鼻マスク・フルフェイスなど)と特徴
CPAPには主に3種類のマスクがあります。
- 鼻マスク:軽く装着感が良い。鼻呼吸ができる方におすすめ。
- フルフェイスマスク:鼻と口を覆い、口呼吸の方にも適応。
- 鼻ピローマスク:小型・軽量で圧迫感が少ない。
最近では、ResMed(レスメド)社やフィリップス社の製品が主流で、どちらも静音性・装着性に優れています。適切なマスク選びが、CPAP継続の鍵になります。
自分に合ったCPAPを選ぶためのフィッティングの重要性
空気漏れや肌の圧迫感は、マスクのサイズや調整が合っていない場合に起きます。医療機関・CPAP機器業者を通じて専門的にフィッティングを行うことで、快適さは大きく変わります。わずかなズレでも改善できるため、遠慮なく相談していただきたい部分です。
マスクのズレ・息苦しさ・乾燥などの対策方法
マスクのズレや息苦しさは、装着位置や圧設定が原因のことが多いです。加湿器付きCPAPを使うと、鼻や喉の乾燥を防げます。また、皮膚トラブルを防ぐために、クッションジェルや専用カバーの使用も効果的です。「息苦しくて続かない」という方も、適切な対策で使用感は大きく変わります。
CPAP療法を続けるコツ
CPAPの効果を最大限に生かすには「習慣化」が大切です。
慣れない・苦しいと感じた時の原因と対処法
最初の1〜2週間は「空気が強い」「鼻がムズムズする」と感じることがあります。原因は圧設定が高すぎる場合や、マスクのサイズ不適合が多いです。
CPAP装置には「オートスタート機能」や「ソフトスタートモード」があり、徐々に圧が上がるため違和感が軽減されます。調整で改善する場合が多いので、必ず医療機関へ相談してください。
加湿・清掃・フィット調整など日々のケア
清潔を保つことが快適に使う第一歩です。マスク・チューブは週1回の洗浄、加湿タンクは毎日の水交換が推奨されます。
菌の繁殖を防ぐため、熱湯ではなくぬるま湯と中性洗剤を使用しましょう。小さな工夫の積み重ねで、治療を続けやすくなります。
続けやすくする生活習慣の工夫
規則正しい就寝・起床時間、アルコールの減量、減量(体重管理)もCPAPの効果を高めます。体重が5〜10%減るだけでも、気道の圧迫が減少し、CPAP圧を下げられるケースもあります。
また、寝る前の深呼吸や、毎晩のルーティンを決めることでCPAPへの抵抗感が軽減されます。生活リズムが整うほど、CPAPの効果は出やすくなります。
CPAP療法を検討している方へ
「治療を始めるべきか悩んでいる」という方は多いです。ここでは、安心して治療に進めるようにポイントを整理します。
初めてCPAPを勧められた方が確認すべきポイント
まずは、「なぜ自分にCPAPが必要なのか」を理解しましょう。診断結果(AHI値、酸素低下の程度)を確認し、不明点は医師に質問を。
また、旅行や出張が多い方は携帯型CPAPを選ぶなど、生活スタイルに合った機器を選ぶことが継続の秘訣です。
呼吸器医療を扱うクリニックの選び方
CPAP療法は、単に機械を貸し出すだけではなく、「眠りの質・呼吸の状態・血糖・血圧まで総合的に見る医療機関」を選ぶことが大切です。
当院では糖尿病・甲状腺の専門性を活かし、生活習慣病を含めた全身管理の視点からCPAP治療を行っています。
検査からCPAP開始までの流れをステップで解説
多くの方が自宅で行う簡易検査から診断がつきます。
1️⃣ 問診・いびきや眠気のチェック
2️⃣ 睡眠検査(在宅または院内)
3️⃣ 医師による診断と治療方針説明
4️⃣ CPAP装着・フィッティング
5️⃣ 定期フォロー(毎月1回のデータ確認)
初めての方でもスムーズに進められるよう、丁寧な説明を心がけています。
まとめ
CPAP療法は、睡眠の質を改善し、心血管疾患や糖尿病の悪化リスクを下げる「根本的な健康サポート」となる治療です。いびきや眠気だけではなく、「朝起きても疲れが取れない」などの漠然とした不調の改善につながることもあります。
つねだクリニックには糖尿病内科専門医である私と、女性医師も在籍しており、伊丹市だけでなく川西市・宝塚市・池田市・尼崎市からも多くの方が通院されています。どなたでも相談しやすい環境づくりを心がけており、駐車場も完備しています。
「いびきが強い」「朝すっきり起きられない」「日中の眠気がつらい」という方は、是非一度ご相談ください。あなたの生活をより快適で健康的なものへと導くお手伝いができれば幸いです。
(文責:つねだクリニック院長 常田和宏)
【参考文献一覧】
- 日本睡眠学会「睡眠時無呼吸症候群 診療ガイドライン」
- Patil SP, et al. Treatment of Adult Obstructive Sleep Apnea with Positive Airway Pressure. J Clin Sleep Med. 2019.
- AASM Clinical Practice Guideline for CPAP Therapy in Adult OSA (2019).
- McNicholas WT, et al. Obstructive Sleep Apnoea. Lancet. 2024.
- Pépin JL, et al. Adherence to PAP Therapy. Lancet Respir Med. 2021.
- Babu AR, et al. Type 2 Diabetes and Sleep Apnea. Endocr Pract. 2020.
- Bratton DJ, et al. CPAP for Resistant Hypertension. JAMA. 2019.