橋本病(慢性甲状腺炎)の原因・症状・治療を専門医が解説
- 2025年8月26日
- 橋本病について
橋本病は「慢性甲状腺炎」とも呼ばれる自己免疫疾患で、免疫の異常により甲状腺に慢性的に炎症が起こる病気です。甲状腺は代謝を調整するホルモンを作る大切な臓器で、甲状腺ホルモンが少なくなる代表的な病気です。機能が低下すると体のだるさや体重増加などが現れます。
橋本病と慢性甲状腺炎は同じ病気?
医学的には「慢性甲状腺炎」の大部分が橋本病であり、同じ意味で使われることが多いです。1912年に日本の橋本策博士が報告した病気で、世界的にもよく知られています。
自己免疫疾患としての特徴
橋本病では自分の甲状腺を免疫が攻撃し、徐々に細胞が壊されます。その結果、甲状腺ホルモンが作られにくくなると、甲状腺機能低下症に進行することがあります。
橋本病・慢性甲状腺炎の原因
遺伝や体質
家族に同じ病気を持つ方がいる場合、発症しやすいことが知られています。自己免疫疾患全般に遺伝的素因が関与します(参考:日本内分泌学会 甲状腺疾患診療ガイドライン2019)。
頻度
橋本病は非常に頻度の高い病気で、成人女性の10人に1人と言われています。
女性に多い理由
女性は男性の20~30倍くらい多いと言われています。特に30〜50代の女性に多く、女性ホルモンの影響や妊娠・出産後の免疫変化が関わると考えられています。
ストレスや生活習慣
強いストレスやヨウ素の摂りすぎ(海藻類の過剰摂取)が病状を悪化させることがあります。
橋本病・慢性甲状腺炎の症状
初期症状
疲れやすさ、冷え、だるさなど軽い症状が多く、加齢や体質のせいと思われがちです。
進行すると
むくみ、体重増加、皮膚の乾燥、声のかすれ、便秘、気分の落ち込みなどが見られます。
甲状腺腫大
甲状腺が腫れて首の前がふくらむことがあります。痛みは少なく健康診断で発見されることも多いです。
橋本病・慢性甲状腺炎の診断
血液検査でTSHやFT4を測定し、抗TPO(甲状腺ペルオキシダーゼ)抗体や抗Tg(サイログロブリン)抗体が陽性なら診断に役立ちます。ただし、甲状腺機能低下症になるのは4~5人に1人未満です。エコー検査で甲状腺の腫れや内部の変化を確認し、バセドウ病など他の病気と区別します。
橋本病・慢性甲状腺炎の治療
ホルモン補充療法
甲状腺ホルモンが低下している場合、レボチロキシン(商品名:チラーヂンS)を服用します。体に必要なホルモンを補う治療で、症状改善に有効です。可能な限り、血液検査でのFT4(遊離サイロキシン:甲状腺ホルモン)及びTSH(甲状腺刺激ホルモン)の両方を基準値内にコントロールすることを目標とします。
薬の飲み方
基本は朝の空腹時に水で服用します。食後やサプリメント、一部の内服薬と一緒に飲むと吸収が下がるため注意が必要です。
定期的な検査
診断時に甲状腺機能低下を認めずホルモン補充療法が不要な方でも今後ホルモンの低下の可能性があります。そのため、補充療法が不要な方では数ヶ月~半年ごと、ホルモン補充治療中の方は数ヶ月ごとに血液検査を行い、薬の量を調整して安定した状態を維持します。
橋本病・慢性甲状腺炎と生活習慣
食事
海藻類の過剰摂取は避け、セレンなどの栄養素を含むバランスの良い食事を心がけましょう(参考:IOM, Dietary Reference Intakes, 2011)。
運動・睡眠
軽い運動と規則正しい睡眠は免疫や代謝を整える助けになります。
サプリメント
自己判断でヨウ素やサプリを摂るのは避け、利用する場合は必ず医師に相談してください。
橋本病・慢性甲状腺炎と合併症
甲状腺ホルモン不足は高コレステロール血症や動脈硬化、心臓病を引き起こすことがあります。女性では不妊や流産のリスクが高まり、1型糖尿病など他の自己免疫疾患を併発することもあります。
橋本病・慢性甲状腺炎と妊娠・出産
妊娠を希望する方はTSHを正常範囲に保つことが大切です。妊娠中はホルモン需要が増えるため、薬の量を調整することがあります。そのため妊娠にあたってはより厳格な調整が必要です。
よくある質問
完治するのか?
慢性の病気で完全な治癒は難しいですが、治療により多くの方が細かな調整が不要で安定した生活が可能です。
一生薬が必要?
多くの場合は長期的に薬を続ける必要があります。自己判断で中止するのは危険です。
生活への影響は?
適切に治療すれば、普段の生活や仕事に大きな支障はありません。
伊丹市で橋本病・慢性甲状腺炎の治療を受けたい方へ
当院では問診、血液検査、甲状腺エコーを組み合わせて診断し、患者さんと相談しながら治療を行っています。甲状腺の症状に不安がある方は、早めの受診をおすすめします。
まとめ
橋本病(慢性甲状腺炎)は自己免疫による病気で、女性に多く見られます。疲れやすさや体重増加、首の腫れなどがあれば早めに検査を受けましょう。治療により生活の質を保つことができます。伊丹市をはじめ、川西市・宝塚市・尼崎市・池田市からも多くの患者さんが来院されていますので、お近くにお住まいの方はぜひ気軽にご相談ください。
(文責:つねだクリニック院長 常田和宏)